講演タイトル

「オムニチャネル戦略」の著者・角井亮一氏登壇、
顧客体験価値最大化のための施策と最新事例&米国事例

消費者の購買行動や要望が多様化している今、いかに販売チャネルや流通チャネルを統合し、顧客体験価値を最大化するかが課題となっています。
この課題を解決するヒントが得られるカンファレンス「【ECとオムニチャネル】顧客体験価値最大化 最新事例&米国事例からもひもとく、3つのキーワード ~オムニチャネル/ロイヤルティ/データドリブンマーケティング~」が2018年10月25日、東京・渋谷にあるイベント会場「TECH PLAY SHIBUYA」で開催されました。
どんな内容が語られたのか、その概要をご紹介します。

流通・小売業にとってオムニチャネルは不可欠なものに

イベント前半は「オムニチャネル戦略」の著者であり、現在約300社もの企業から通販物流を委託される国内トップクラスの通販専門物流代行企業、株式会社イー・ロジット 代表取締役社長兼チーフコンサルタント 角井亮一氏による講演「米国から学ぶオムニチャネル戦略~物流基盤の最新EC&リアル流通~」が行われました。

角井氏の講演では、以下のような内容が語られました。

株式会社イー・ロジット
代表取締役社長兼チーフコンサルタント
角井亮一氏

今や流通・小売業にとってオムニチャネルは不可欠なものになってきました。オムニチャネル戦略は物流戦略とも言えます。

角井氏自身、2012年頃から「宅配が危ない。崩壊する」と言ってきました。そこで、2014年、角井氏を中心に流通事業者と3PL(サード・パーティ・ロジスティクス)事業者の代表者で宅配研究会が発足されました。そこには物流を宅配業者だけに任せていいのかという課題があったと言います。万が一、宅配システムが崩壊してしまったら、お客さまはもちろん結果的に荷主である通販事業者やEC事業者も被害を受けるからです。

そこで同研究会では「ウケトル」という荷物の追跡や再配達依頼のための無料アプリをつくりました。ウケトルは大手配送業者だけではなく、中小規模の配送業者にも対応。その他のデリバリプロバイダを要しているAmazonの荷物も100%追跡可能になっています。そしてこの10月には国内最大級のファッション通販サイト「ZOZOTOWN」や「ヨドバシ・ドットコム」とも連携を開始しました。

角井氏が経営しているイー・ロジットはネット通販の物流代行で国内ナンバーワンの実績を誇ります。東京・江戸川区(東京FC)、埼玉・八潮市(埼玉FC)、埼玉・三郷市(三郷FC)と都心部に物流センターを設けています。今後は地方にも展開を考えているそうですが、オムニチャネルにおいて物流を考えたときに、顧客と近いところに接点を持てるかがキーになると言います。

物流戦略はブランド戦略に直結

例えばZARAとユニクロ。両者の物流戦略を4Cフレームワークに当てはめてみます。4CとはConvenience(利便性、価値提供)、Constraint of time(時間、リードタイム)、Combination of method(手段の組み合わせ)、Cost(コスト、予算)。比較すると、物流戦略が異なることがわかります。つまり競合各社と比べても、同じ物流ネットワークができるとは限らないということなのです。

<4Cを活用した両社の戦略特徴>

ZARA:世界中のお客さまに最先端のファッションを早く届ける。あるアイテムで一つのサイズがなくなるとすべてバックヤードに戻すなど、欠品はNGではない。
ユニクロ:ベーシックな服を安く提供する。ユニクロは欠品しない。

この考え方の違いが物流にも表れています。高級ブランドであっても、一般的にアパレルは船便を使いますが、ZARAは航空便を使います。在庫型センターではなくスルー型。在庫を置くという発想はありません。コストに関しては、早さを優先。だから航空便を使うのです。

一方のユニクロは船便です。物流拠点に関しては、各店舗群に在庫型センターを設置。これは店舗で欠品するとすぐ持って行けるようにするためです。コストに関しては、スピードよりもローコストを優先しています。ベーシックなものを安く提供するという物流戦略があるからです。

Amazonは顧客満足を向上させるため、物流に注力

海外企業の中で物流に最も力を入れているのがAmazonです。Amazon自身も「我々は物流会社だ」と言い切っています。Amazonが物流に注力するのは、顧客満足につながるからです。彼らのミッションは大きく2つ。ひとつは地球上で最もお客さまを大切にする会社。もうひとつはお客さまが買いたいものを何でもオンラインで見つけられるようにすること、つまり世界最大のカタログをつくることです。

Amazonの社員の間では「Customer-centric」という言葉がバイブルになっているといいます。Amazonにとって大事なのは、お急ぎ便や当日便の数を増やすこと。こうすることがCustomer-Centricであり、顧客満足が上がるからです。

Amazonの物流コストは初期と比べると、かなり上昇しています。初期はシアトルの倉庫だけだったのが、その後、できるだけお客さまに近づくため、拠点数を増やしてサプライチェーンを短くし、在庫も拡充。複数の宅配業者を利用し、届けることに対応してきました。2012年の利用割合はUSPが30%、USPSが35%、FedExが17%、OnTracなどの地域宅配会社が18%。2011年12月のFedExの荷物ぶんなげ事件、2年後の2013年12月にはUPSのクリスマス大遅配事件など、配送に関してさまざまな痛い目を見てきました。

そこでAmazonではラストマイルの配送を強化するため、2015年には一般の人が商品を配達する「Amazon Flex」というクラウドソーシングプログラムを開始。さらに今年1月から、「アマゾン・デリバリー・サービス・パートナー」というプログラムを立ち上げました。

これは起業家プログラムのひとつ。1万ドルの資金で、Amazonの配送ビジネスを開始することができます。配送に使われるバンは、メルセデス・ベンツ製。Amazonでは同バンを2万台発注するなど、このプログラムを積極的に推進しています。その他にも、オスプレイ型のドローンの実証実験に取り組んだり、42機の飛行機を買ってオペレーションし始めています。

受け取りサービスで物流コストを削減し、顧客満足も向上

届ける方法を充実させる一方で、Amazonでは取りに来てもらうことにも取り組んでいます。「hub(ハブ)」という宅配ボックスサービス、そのほかAmazonで注文した生鮮食品をドライブスルーでピックアップできる「アマゾンフレッシュ・ピックアップ」。つまり物流の量を減らす努力をし始めているのです。

またカルフォルニア大学バークレー校をはじめ、大学内に荷物を受け取れる拠点「キャンパス・ピックアップ・ポイント」を設置したり、昨年Amazonが買収した自然食品スーパーマーケット「ホールフーズ・マーケット」に宅配ボックスを設けたり、ホールフーズ自らデリバリーする仕組みをつくったりしています。Amazon自身がお客さま接点になっていくことに取り組んでいるのです。

有店舗の場合は、店舗在庫からの受け取りサービスに取り組んでいるところが多いようです。例えば老舗百貨店Mascy’s (メイシーズ)のオンラインストアでは「Pick Up Today」を実施。また、ディスカウントストアTagetは、前日までにネットで注文をしたら、当日に商品を受け取れるというサービスを実施しています。Targetはこのサービスを2013年に開始したことで、売上が上昇しました。というのはアメリカの場合、陸送で急がないものは無料ですが、急ぐものは有料になっているからです。

日本ではヨドバシカメラがネットで注文すると、在庫があれば30分以内に店舗で受け取れるサービスを実施しています。特に秋葉原店では、24時間受け取ることができ、顧客満足についても考慮されています。

米国の楽器小売チェーンGuitar Centerと、日本のカメラのキタムラも店舗受け取りサービスを展開しており、両者には顧客満足において共通項があります。それは商品知識が豊富な店員が揃っていること。Guitar Centerの場合、店員は皆プロかアーティストです。また、キタムラの場合、約6割の荷物が店舗受け取りだといいます。

このように店舗がある場合は、店舗に受け取りコーナーやドライブスルー型を設けることと、店舗からの配送方法を整備することです。

一方、店舗のない場合は物流センターからの配送について考えること。Amazonの「プライムナウ」のような最短2時間で届けるような仕組みをつくることもそうですが、宅配ロッカーを活用するなど配達を簡略化するための仕組みをいかにつくるかが、今後の課題となると考えています。

オムニチャネル戦略の設計において、お客さまがどういう受け取りにしたいのかを考えることが非常に重要なポイントとなります。そのためにも先に紹介した4Cに物流戦略を当てはめること。その上で、オムニチャネル戦略を設計していくことが必要となります。

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