講演タイトル

「オムニチャネル戦略」の著者・角井亮一氏登壇、
顧客体験価値最大化のための施策と最新事例&米国事例

顧客体験価値を向上させるための取り組み

続いて「メーカー通販/小売オムニチャネル LTVアップに向けて売場内外で取り組むべきコトとは」というテーマで、一部に引き続き角井氏、株式会社YUDIEA菅野 晶仁氏、株式会社グローバルステージ大洲早生李氏によるパネルディスカッションが行われました。

株式会社グローバルステージ 代表取締役&CEO
大洲 早生李 氏(兼モデレータ)

大洲:新規顧客の獲得からリピーターにつなげていくために、顧客体験価値の最大化は必須です。米国での特徴的な取り組み例を教えてください。

角井:例えば北米最大規模の家具屋であるネブラスカ・ファニチャーマートでは、商品の場所はアプリでナビゲーションするが、商品の説明や相談などは人が行っています。おもしろいのは店舗でもライブチャットを活用していることですね。

大洲:その逆で顧客体験価値の最大化で失敗戦略があれば、お聞かせください。

角井:トイザらスはお客さまのライフスタイル、購入の仕方が変わったことに追いつけなかったことで業績が落ちています。オムニチャネルの時代になると、1,000坪もの大型店舗では坪効率が悪くなる。小型店舗を増やすスピードを速めれば、今とは違う状況になっていたと思います。日本のトイザらスは小型店舗に転換できているので、うまくいっていると考えられます。

大洲:店舗の小型化が進むというのはよく言われていますね。そのメリット、デメリットがあると思いますが。

角井:小型化のデメリットは、その場で持って帰れないことが増えること。一方、全体のサプライチェーンで考えるとメリットがあります。例えば米国のSPA型の通販を展開しているメンズアパレルの「Bonobos(ボノボス)」は店舗も持っています。

しかし、店舗はガイドストアなので、あくまでサイズをみるだけ。そこで購入しても引き取ることはできません。一般的なアパレルショップでは、サイズが増えれば増えるほど店舗の在庫も増えます。売れ残りが発生すると廃棄処分が必要になるため、それを見越した価格設定になります。

一方、ボノボスは原価+利益のみで、廃棄コストは入っていないのでリーズナブルに購入できます。しかも店舗を増やすことで顧客を増やすことが可能です。こうして小さい店舗を増やし、ファンも増やしています。

大洲:店舗に来た人にどう売るかということもありますね。Amazonの返品カウンターを設けることで来客数を増やすという戦略を立てたところもあります。

角井:その戦略をとっているのが、コールズという百貨店。売上が落ちてきたので、Amazonの返品カウンターを設けたところ、来客数がぐんと増えた。ひとつの顧客満足につながっています。

既存流通とはどう折り合いをつける

株式会社YUIDEA Digital x Global部門 執行役員
菅野 晶仁氏

大洲:ECを立ち上げるときに問題になるのが、既存の流通との兼ね合い。その辺りはどう解決すればよいでしょうか。

菅野:顧客接点が小売にあるのであれば、そこに顧客が来るようにマーケティングしていくことがポイントとなります。販売をすることが、お客さまに直接、価値を提供できる場としての可能性があります。単純にそこの売上高を上げること以外の価値を販促費として持っておくという方法を提案することが必要となります。

角井:通販専門商品をつくったりするのもそのひとつ。ナイキやアディダスなどは店舗ではできないことをやっています。

オムニチャネルはLTV向上につながるのか

大洲:オムニチャネルでLTVが上がるイメージが湧かないという意見をもらったことがあります。

角井:これはデータが表していること。例えば無印良品のアプリを使う人は、近くに店舗がある人だということがわかっています。店舗への気持ちは恋愛と同じ。遠距離恋愛になると別れやすいのと同じで、店舗も近くにないと気持ちが薄れてしまいます。つまり店舗が近いとロイヤリティが出てくる。例えばある店舗の売り上げが赤字だからとそこから撤退すると、その商圏内の通販の売上も下がるのです。

中国アリババグループの盒馬鮮生(フーマー)という生鮮食品のスーパーマーケットは、店舗に来てもらうためレストランを併設。購入したロブスター、カニなどをその場で調理、その新鮮さをアピールしています。新鮮さを店舗で体験できるから、ネットスーパーも流行っています。しかも店舗から半径3キロメートル以内なら、30分以内に届くという仕組みを持っている。店舗があるから売上が伸びているのだと思います。

菅野:このように事例はたくさんあります。オムニチャネルだとEC化率の話になりますが、実際の店舗を持つ小売の場合、売上のほとんどが店舗となります。オムニチャネルでLTVが上がるというのはオムニチャネルが誰目線の話になるのかによりますね。店舗を持つ小売の場合、利便性を高めるために、ECを併用しています。

一方、ネット中心のブランドの場合は、ガイド型店舗やショールームなど、顧客接点がより得られる場所と組み合わせることが、お客さまのLTV向上につながります。コストとマーケティングのバランスがうまく取れている事例が出ているので、皆さんも取り組む価値があると思いますので、ぜひ!

実行に当たって壁の乗り越え方

大洲:メーカーや流通が通販を始めようと思っても、社内の抵抗勢力やコスト、人材の問題などさまざまな壁があります。それをどのようにして乗り越えればよいでしょうか。

角井:トップダウンでいくしかないのかなと。ヨドバシカメラが有無を言わさずできたのはそういうところ。またメガネスーパーなどは店舗関与売上という仕組みを設けて、割り振っているところもあります。

菅野:正解がないですね。ECを1店舗と考えると横並びに見えますが、店舗関与売上のように本来、ECはすべての店舗に影響を与える存在。結果的にトップダウンが多いのは、評価と売上の仕組みを決めないといけないからでしょう。

大洲:最後に、これから小売業が生き残っていくためのキーワードを教えてください。

角井:ひとつは送料無料。米国のトップ1,000社の送料無料を打ち出していないところは253社しかないと思います。Amazonが打ち出していないからです。2つ目はアイテム数。単品でやっているところは別ですが、ネットスーパーなどではできる限りアイテムを持ってマーケットサイズを増やしています。3つ目が買い物の拘束時間を減らすこと。特にルーティンワーク的な買い物は短い時間がベスト。この3つの観点は最低、考えておかないといけないと思います。

菅野:昔からマインドシェア(顧客インサイト)、タイムシェア(顧客時間)、ウォレットシェア(顧客勘定)という話があるように、これらをきちんと考えて取り組んでいくことだと思います。時間をどう体験に使ってもらうかということを考えて、オンラインとオフラインでうまくつなげて設計するべきです。そしてそれらのコストや売上などを顧客軸で勘定していく。チャレンジすべきことはまだまだたくさんあります。

顧客体験向上のためにどんな取り組みがあるのかという点では、具体的な事例が多数紹介されたことで、施策のイメージが湧きやすかったのではと思われます。日本ではこれからオムニチャネルに本格的に力を入れる企業もまだ多いかと思いますが、今回の話も参考になれば、と願っています。

イベント後は講演内容に対しての質問や意見交換、参加者同士の交流も積極的に行われました。

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